先月の某日１２時。 約束の時間ピッタリに、彼は来た。
「どうも。なかなかTakaさんの仕事を手伝えなくて、申し訳ないです・・・」 彼はそう言って、座る。
場所は、駅近くにある炉端焼き屋。 昼定食が食べられて、パソコンのルーターの電波が届く店。 僕達のミーティングに、電波は欠かせない。
彼の名は、穂墨縋。
「この名前は、どう読むんだろう？」 そう思われるのも当然だろう。 グーグル検索をしても、見つからない名前だから。 彼に、「検索されない名前をペンネームにしてね」と、お願いした。 有名人の名前をペンネームにしたら、マナー違反なので。 当サイトのペンネームに、検索は欠かせない。
「穂墨縋」と書いて、「ほずみ すがる」と読む。
『 GAKUTAME LEARNING メディア 』の投稿者として、今年から参加してもらうことになった。 彼の職業は、作家。 忙しいなか、アドバイザーとして、創業時から事業に協力してくれている。 数ヶ月に一回程度、穂墨君とビジネスミーティングを繰り返しているのだ。
最近、彼は常に数冊の本を出版する予定があるため、とにかく忙しい。 出版予定の小説を書きながら、違う出版会社から依頼されているライトノベルのプロットも作成しなければならない。 そんな状態が続いている。
小説、漫画等の創作物で、物語の筋、構想のこと
そのうえ彼は、副業として人の文章や作品の添削などもしている。 収入を得るという理由だけではなく、今までお世話になった人達への恩返しの意味もあるのだろう。 真面目にその副業もしている。 穂墨君と会話をしていると、時々、自分を育ててくれた人への感謝の言葉が出てくる。
「昔、自分の作品や文章を、文章の先生や編集長などに読んでもらうと、毎回めちゃくちゃ批判されたんですけど・・・
言われることは、ごもっともです、って感じで、全く反論できませんでしたね・・。 ぼくを鍛えてもらって感謝してますよ・・・。 まだまだこれからが勝負のぼくが、今感謝するのもおかしいかもしれませんが (笑)」
添削などの副業は、自分を育ててくれた人達から割りふられる仕事なので、彼は疎かにすることができない。 それに、添削される人に対しても、「真剣に添削しなければならない」という思いを持っている。
そんな真面目な穂墨君。 そんな忙しい穂墨君が、なぜ、投稿者として参加してくれるのか？
・ ・ 僕にもよく分からない。
もしかして・・・
僕に対して恋愛感情が？
・ ・
彼は女性と結婚しているので、それはない。
もしかして・・・
僕に恩を感じているから？
真面目な穂墨君のことだから、僕に何か恩返しをしたいのかもしれない。 そう考えて、過去の出来事をいろいろと思い返してみた。
・ ・
僕は、彼の肩に付いていた小さなゴミを取ってあげたことがあるが・・
他には何も思いあたらない。
もしかしたら、彼の向上心・好奇心の強さが理由なのかも。 また今度、穂墨君と会うときに聞いておこう。
そういえば、以前彼が言ったことを思い出した。 彼いわく、 「自分の仕事に支障をきたさない程度でいいなら参加します。 サイトで実験的なこともさせて下さい。 大手出版会社では通らない企画や、マニアックな投稿もしてみたいです。 読者に喜んでもらえるか知りたい」とのこと。
なるほど。 創造のレベルアップに、マーケティングは欠かせない。
話は戻って、先月の某日。 炉端焼き屋でのミーティング中、僕から穂墨君へ、ある提案をした。
「忙しい今は、下調べが必要な投稿をするより、常日頃考えていることや、今ある知識だけで書ける投稿から始めてみたらどう？」
彼は、この提案を承諾。 しばらくの間、穂墨君は、彼の頭の中にある知識・知恵だけを使って投稿していく。 なぜ、僕がこのような提案に至ったのか？ 理由がある。
このミーティング中、彼から「作家の美学」のようなものを感じたからだ。
僕が彼に、 「穂墨君は忙しいし、時間短縮のために、今、ここで投稿の下書きを書いてくれない？ パソコンを持ってきたし。 300文字から400文字程度の文章、君なら15分で書けるでしょ？」と言ったら・・・
真剣な顔で穂墨君は、こう答えた。 「いや、そんな簡単に文章なんて書けませんよ。 書くには入念な下調べが必要です。 サイトへの短い文であっても、そんな無責任なこと、ぼくにはできません」
・ ・
" 穂墨君・・・
僕が間違っていたよ・・・
君は、本物のプロ作家だね・・・
もし君が、投稿している僕の姿を見たら・・・
きっとこう見えるんだろうな・・・"
そういうわけで 提案を受け入れた穂墨君は、彼の頭の中にある知識だけで書き始めた。 僕の目の前で。
でも・・・、 腕組みをして、なにか考えているようだ。
「自己紹介文って、難しいんっすよ～・・・」 そう言いながら、右に約30度、顔が傾いている。
これから何年も続く、構想、コンセプト、自分が書きたいこと、実験したいこと、様々なことを思案する時間が必要なのだろう。(僕の推測）
自己紹介は、そういう先のことを考えて書かなくてはいけないから・・・。
この一年間、会うたびに彼と僕は、将来の構想やコンセプトのことを話し合ってきたのだが・・・ まだ考える時間が必要のようだった。
でも・・・
書き始めてからは早い！
タッタカ、タッタカと、キーボードを打つ速さが半端ない。 すぐに書き上げた。
「穂墨君、自己紹介文を書いてから間が空き過ぎるのもなんだし、２本目の下書きを書いてくれない？」
「了解っす」
タッタカ、タッタカ カシャカシャ、カシャカシャ
「できました」
・・・・・
君は人間タイプライターかっ！
今回、彼から、プロ作家になるために必要な資質・美学のようなものを教えてもらったような気がする。 作家の文章に、責任感は欠かせない。
穂墨君は、投稿の下書きを２本書き上げると、串焼きの盛り合わせにレモン汁をかけ始めた。
「ぼく、レモン、好きなんですよ～。 Takaさんは好きじゃないでしょ？」 そう言って、彼は僕が返事をする前に、自分が食べる分の串焼きにだけレモン汁を全部かける。
僕の食べる分にはかけず、レモンを完全に絞り切った。
" あれ・・・？ 最初の串焼き盛り合わせを頼んだときに、僕の分の串焼きにもレモン汁をかけたのに・・・
穂墨君・・・、執筆に集中し過ぎて忘れてしまったんだな・・・
追加注文したこの串焼き盛り合わせに、僕もレモン汁をかけるのをすっかり忘れていたよ・・・
君の物書きとしての責任感、「作家の美学」ってやつに圧倒されていたためにね・・・
僕・・・
レモン・・・ 
大好き
なんだよ・・・"
いつもの僕が、串焼きにレモンを絞る確率は・・
不等式で表すと・・・
「僕が串焼きにレモンを絞る確率」 > 「ピアノを弾けない小学生が、ピアノを見つけたら "ねこふんじゃった"を弾き始める確率」
上記の式のとおり、かなり高確率なのがお分かりかと思う。 このことを忘れずに覚えていてもらえるように、この投稿を通して穂墨君に知らせようと思った。
僕にとって・・
串焼きの盛り合わせに、レモン汁は欠かせない！
穂墨縋の第一回目の投稿は、この1月12日の予定。
僕が今回学んだ三つのこと
① 感謝の気持ちを持って仕事をする
② 責任感を持って文章を書く
③ 書く時間より、下調べや構想に時間を多くかける
・
・
僕は、これからも学びを増やして、少しでも小ネタを得ていきたいと思っている。
Taka
Writer : GAKUTAME LEARNING Media（GLEM）Organizer Takayuki.M
