文学・小説作品において、「現実社会を書く」「現実世界を書く」ことは、すなわち本が売れなくなることを意味する。
現実を知りたければ、ビジネス書を読んだりGoogle検索すればよく、創作物である文学には現実を求めないのだ。
創造と現実の乖離が進んでいるのである。
かつての文学は、現実の中で生きる一般大衆の苦しみや幸せを受けとめる芸術として機能していた。
昔の日本人が、どのような生活をしていて、どんな悩みがあったのかを知りたければ、日本文学を読むといいだろう。
そんな日本文学の知識を得るのに、お勧めの本がある。
日本文学検定 公式問題集 [近現代] 2級
新典社 日本文学検定委員会 編 2011-07-26
日本文学検定は、「日本文学の楽しさ・美しさ・奥深さをもっと多くの人に知ってもらいたい。日本文学を未来につなげたい。」という想いのもと発足された。
この問題集を解けば、自然と日本文学の知識を得られるというわけだ。
出題するので挑戦してみてほしい。
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
第二次世界大戦後、権威や良識に逆らい、人間の生き様をそのままに描こうとした作家たちがいる。
彼らは[ア ]あるいは無頼派と呼ばれた。
その一人である坂口安吾は『[イ ]』で、「特攻隊の勇士はすでに闇屋になり、未亡人はすでに新たな面影によって胸をふくらませている」、「人間は生き、人間は堕ちる」と記し、戦後の混乱の中で虚脱感を覚えていた人々の共感を得た。
同じ派の太宰治が書いた小説『[ウ ]』は、主人公の女性が、「人間は恋と革命のために生まれてきたのだ」といって、無頼作家の子を私生児として身ごもるが、こうしたロマンチシズムはこの派の文学に特徴的なものだと言える。
問1 空欄アに当てはまるものを選びなさい。
① 新感覚派
② 新戯作派
③ 耽美派
④ 白樺派
問2 空欄アに属する作家を選びなさい。
① 織田作之助
② 葛西善蔵
③ 谷崎潤一郎
④ 有島武郎
問3 空欄イに当てはまる作品を選びなさい。
① 白痴
② 風博士
③ 堕落論
④ 生まれ出づる悩み
問4 空欄ウに当てはまる作品を選びなさい。
① 人間失格
② 斜陽
③ グッド・バイ
④ 女生徒
問5 空欄ウでは、主人公の弟がデカダンスな生活を送り、やがて自殺するが、その際姉に宛てた遺書に書いてあった最後の文章は「姉さん。僕は[ ]です。」というものだった。 空欄に当てはまる言葉を選びなさい。
① 素面
② 貴族
③ 孤独
④ 馬鹿
どうだろうか?
難しかっただろうか?
解答
問1・・② 問2・・① 問3・・③ 問4・・② 問5・・②
解説
問1 「新戯作派」の呼称は坂口安吾のエッセイ「戯作者文学論」などによる。
問2 ③谷崎潤一郎は、耽美派の永井荷風に認められてその地位を確保したが、のちに『痴人の愛』などの作品にみられる悪魔主義を確立する。 ④有島武郎は雑誌「白樺」で活動していたことから白樺派と呼ばれる。
問3 ①『白痴』・②『風博士』・③『堕落論』は坂口安吾、④『生まれ出づる悩み』は有島武郎の作品。
問4 『斜陽』は、「新潮」に昭和二十二年七月から十月にかけて連載された、敗戦直後の没落貴族を描く太宰治の代表作。 太宰治の生家である記念館は、この小説の名をとって「斜陽館」と名付けられた。
問5 『斜陽』は、没落した貴族の崩壊を描いた作品。 当時、太宰の愛人であった太田静子の日記を参考に書いたもので、太宰没後に太田静子は『斜陽日記』を刊行している。
この問題集のいいところは、解説もついていて勉強になることだ。
全問解いて解説も読めば、日本文学のことだけでなく、日本の歴史を学ぶことにもなる。
文学とは『人間』というものを徹底的に書かれたものである。
結論
日本文学を読んで、日本人を知るべし!
小室真司