このような社会のなかで生きている私達は、多かれ少なかれメディアから影響を受けていることは間違いない。
メディアを研究することは、私たち自身、「人間」を研究することにもなる。
「メディア」や「人間」を知りたい人へお勧めの本に、
はじめてのメディア研究 「基礎知識」から「テーマの見つけ方」まで
浪田陽子 福間良明 編 世界思想社 2012-04-20
というのがある。
この本は、メディアを専攻する大学1,2年生の導入科目、または一般教養のメディア学関連科目の教科書として使用されることを想定して作られている。
つまり、メディア研究を始めるのに最適な構成となっているのだ。
目次
Ⅰ メディア研究の基礎知識
第1章 メディア・リテラシー
第2章 メディア史を概観する
第3章 ジャーナリズムの歴史と課題
第4章 メディアと社会の理論
第5章 メディアと文化の理論
Ⅱ 研究テーマの見つけ方
Part1 ジャーナリズムと広報・広告
Part2 ポピュラー・カルチャーを読み解く
「第1章 メディア・リテラシー」は、メディア・リテラシー、教育社会学 学者の浪田陽子氏によって書かれている。
「メディアを学ぶということ」、「メディア・リテラシーの基本概念」、「メディア・リテラシーの普及を目指して」の三部構成だ。
浪田氏は、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学大学院カリキュラム研究科博士課程修了なだけあって、カナダのメディア・リテラシー教育に詳しい。
カナダは、世界トップクラスレベルのメディア・リテラシー教育をしている。
なぜなら、カナダは大国アメリカの隣にあるうえ、公用語が英語だからである。
つまり、電波や衛星放送を通して、アメリカのメディア番組・情報が大量にカナダに入ってくるから、メディア教育を真剣にせざるをえない環境なのだ。
日本の場合、日本語が公用語のため、外国メディアの影響を受けにくい。
そのため、メディア・リテラシー教育が遅れている。
日本人は、カナダのメディア・リテラシー教育などを参考にして、自分で勉強する必要があると思う。
本書の第1章を読むことは、その勉強の助けになるであろう。
「第2章 メディア史を概観する」は、パブリック・アクセス論、映像ジャーナリズム論、メディア政策論 学者の金山勉氏によって書かれている。
「文字(テキスト)メディアの時代」、「出版の盛衰」、「視覚メディアの誕生と発展」、「電子メディアの登場とコミュニケーション形態の大変革」、「宇宙開発、メディアのグローバル化、そしてデジタル化へ」の五部構成だ。
第2章では、メディア技術を持たない時代から現代まで、どのような変遷をたどってきたかを、メディアの歴史に沿って概観している。
この章の最後の締めくくりは、「自分たちのメディア・情報行動を客観視することができる力、メディア・リテラシーの力が重要になってくることは言うまでもないだろう」という言葉である。
このことからも、メディア・リテラシー能力の必要性が分かる。
私達は、メディアの歴史を研究し、メディア・リテラシーの力を上げる必要があるのだ。
「第3章 ジャーナリズムの歴史と課題」は、ジャーナリズム論 学者の柳澤伸司氏によって書かれている。
「ジャーナリズムの本質」、「日本のジャーナリズムの誕生と発展」、「戦争に協力していくジャーナリズム」、「ジャーナリズムの責務と課題」の四部構成だ。
柳澤氏によると、マス・コミュニケーションの5つの活動領域である「報道」、「論評」、「娯楽」、「教育」、「広告・宣伝」のうち、ジャーナリズムは「報道」と「論評」の活動が主目的である。
私は、日本のジャーナリズムの課題は、日本の記者クラブにあると思っている。
中央官庁・地方自治体・警察などに置かれている記者クラブは、政府・官庁・企業などが発表する見解や情報を無批判的に社会へ垂れ流す。
まったく「論評」がないのだ。
もちろん、事実の裏付けがない批判・論評をするのは問題だが、記者クラブ制度は、そもそも「論評」がないのであるから、ジャーナリズムの機能をはたしていないのである。
最近はインターネットメディアの発達により、昔よりは格段によくなった。
インターネットで、質の高いジャーナリストの論評を視聴したり読めるようになったことはいいことである。
しかし、インターネットの欠点は、自分から積極的に「質の高い情報を求める人」にしか質の高い情報を届けられないということだ。
つまり、インターネットメディアは、マスメディアになりにくく、大衆に質の高い情報を届けるのは難しい・・・。
本書の第3章を読んで、日本のジャーナリズムの課題を考えてみてほしいものだ。
「第4章 メディアと社会の理論」は、社会学 学者の筒井淳也氏によって書かれている。
「メディアを取り巻く社会的環境」、「メディアと経済」、「メディアと政治」、「メディアとその他の社会領域」、「メディアの普及」の五部構成だ。
メディアは社会から独立して存在しているわけではない。
メディアは社会に埋め込まれているし、社会から必要とされて普及していく。
一方で、普及したメディアは社会を変えていく。
第4章では、このようなメディアと社会の相互規定的な関係を、社会理論などをもちいて説明している。
この章を読むことによって、メディア研究をするためには社会学、経済学、政治学のような人文社会科学の知見が必要になることが分かる。
もちろん、数学や自然科学の知見も必要になる。
学問にはリベラルアーツ、幅広い教養が必須なのだ。
「第5章 メディアと文化の理論」は、メディア論、文化社会学 学者の瓜生吉則氏によって書かれている。
「メディア/文化を読み解くということ」、「テクストとしてのメディア/文化」、「メディア/文化を形づくる<モノーコト>」、「カルチュラル・スタディーズの実践」、「日本のメディア/文化をどう考えるか」の五部構成だ。
第5章は、表題の通り、メディアと文化の理論を紹介している。
記号学、社会人類学、カルチュラル・スタディーズから、サブカルチャー、オタク文化、インターネットのことまで、幅広く論じている。
この章を読んでも分かるように、メディア研究をするためには記号学、文化人類学、言語学のような幅広い学問の知見が必要なのだ。
「Ⅱ 研究テーマの見つけ方」では、「”メディア学する”とは何か」を学ぶことができる。
「メディア学の知識をどのように利用すればいいか?」、「どのようにしてメディア研究テーマを見つけるか?」を考えるための実践例を豊富に紹介している。
本書は、参考文献・おすすめ文献が数多く紹介されているので、それらの文献・本もあわせて読みたいものだ。
結論
メディア研究、学問をするには、幅広い学問的教養が必要である!
小室真司